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ハックマン石

蛍光・テネブレッセンスを示す鉱物「ハックマン石」の観察教材です。

※上記の画像をクリックするとシミュレーションが起動します(起動に数分程度かかることがあります)。

蛍光・テネブレッセンスの定義

本ページで解説する蛍光とは、鉱物に紫外線を当てた場合、その鉱物が光る現象を指します。また、テネブレッセンス (tenebrescence/統一された日本語訳がないようですので、本教材ではカタカナ表記の「テネブレッセンス」と呼びます) とは、短波紫外線 (本教材では254nm) を照射すると、石の色が変わる現象を指します。テネブレッセンス状態でも、蛍光灯の下で数分間放置すると元の色に戻り、再び短波紫外線を照射すると色が変わります。なお、ラテン語で闇を表す「tenebrae」が語源になっています。

蛍光・テネブレッセンスを示す鉱物

蛍光を示す鉱物は数多くあり、本教材で扱っている鉱物はほぼすべてが蛍光を示します(ただし、同じ鉱物であっても、ものによって蛍光しないものもありますので、蛍光の観察目的で購入する際などは注意が必要です)。身近な鉱物であれば、ダイヤモンドやオパールなども蛍光を示します。

一方、テネブレッセンスを示す鉱物は多くはありません。本教材で扱っているハックマン石のほか、スキャポライト(柱石)もテネブレッセンスを示すことで有名です(ただし、同じ鉱物であっても、ものによってテネブレッセンスしないものもありますので、テネブレッセンスの観察目的で購入する際などは注意が必要です)。

蛍光・テネブレッセンスの原理

簡易的な説明

これはエネルギーの高低を場所の高低に準えた電子の動きのイメージ図です。

紫外線は波長が短い分、高いエネルギーを持ちます。そのため、紫外線が当たるとその物質の電子のエネルギーも高くなり、エネルギーを蓄えます(高い位置に移動するイメージ)。ただし、この位置は不安定なため、電子は元の安定した位置まで落ちようとします。このとき、電子が持っていたエネルギーが、熱のほかに、光エネルギーとして放出されます。これが蛍光として見えるのです。

一方、テネブレッセンスは、高い位置から落ちる際、一部の電子が元の位置ではなく、途中の高さまでしか落ちないことが原因で起こります。この位置にいる電子は、元の位置よりも高いエネルギーを持っている状態です。そのため、可視光線のような、低いエネルギーを与えるだけでも高い場所に移動できます。このとき、可視光線の白い光のうち、特定の色のみを吸収するため、吸収されなかった色が反射して、石に色が付いたように見えます。これがテネブレッセンスです。なお、この高い場所から落ちる際も光エネルギーは放出されますが、照明の光よりは弱いので、私たちの目には蛍光しているようには見えません。

詳しい説明

蛍光とテネブレッセンスの原理は、バンド理論によって説明できる。 図中の用語の意味は次の通りである。

価電子帯:電子が充満しているバンドのこと。同じ結晶中の最外殻の電子がとるエネルギーは、すべて異なる(パウリの排他理論)。この最外殻電子がとるエネルギーの幅とも考えられる。 禁止帯:価電子帯と伝導帯にあいだにあるギャップのこと。 伝導帯:価電子帯・禁止帯よりエネルギーが高い位置にある、電子があまり存在しないバンドのこと。

鉱物に入り込んだ不純物は、結晶中の禁止帯に電子を持つ。この位置を不純物準位という。また、着色を誘起するため、色中心でもある。この不純物準位にある電子が遷移することによって蛍光やテネブレッセンスが起こる。

まず、図中の①のように、Aの準位に入っていた電子が、紫外線によって伝導帯まで励起される。しかしこの位置では不安定なため、②のように、安定している禁止帯まで戻ろうとする。この時に熱及び光エネルギーが発せられ、それが私たちの目には蛍光しているように見える。③のように、Aの位置まで落ちることもあるが、この際は紫外線に近い光を放出するため、蛍光として視認できない。

Bの準位に入っている電子は既に比較的エネルギーが高い状態であるので、④で示す通り、可視光線のような低いエネルギーの光源でも励起される。この際、Bの準位から伝導帯の底のエネルギー差に最も近い波長が効率よく吸収され、それ以外の波長が反射することでテネブレッセンスとして色づいて見える。

なお、Aの準位からBの準位まで直接遷移することはできない(光学遷移選択則)ため、紫外線を当てるまでテネブレッセンスは起きない。

スペクトルとは

どの波長(色)がどの程度の割合で含まれているのかを表したものです。本教材では、どの波長がどの色に対応するのかの目安は、各スペクトルの下部に表示しています。どの波長(色)が一番強いのか、波長(色)の強度(強ければ強いほど明るい)や、ピークの幅(鋭さ)などの情報から、色の特徴をつかむことができます。

教材内用語の解説

母体結晶

鉱物から不純物を取り除き、純粋な物質としたときの組成のことです。

アクチベーター

鉱物に入り込んだ不純物で、発光要因となる元素のことです。

結晶系

鉱物は同じ原子配列が繰り返し規則正しく並んでいます。基本の大きさである「単位格子」の形態にグループ分けしたものが晶系です。

結晶軸の角度と軸の長さに応じて、次の7つに分類されます。

  • 立方晶系(等軸晶系):3本の結晶軸の長さが等しく、すべて90度で交差している。
  • 正方晶系:3本の結晶軸のうち2本の長さが等しく、すべて90度で交差している。
  • 直方晶系:3本の結晶軸の長さがそれぞれ異なり、すべて90度で交差している。
  • 単斜晶系:3本の結晶軸の長さがそれぞれ異なり、このうち2本が90度で交差している。
  • 三斜晶系:3本の結晶軸の長さがそれぞれ異なり、3本とも90度以外の異なる角度で交差している。
  • 三方晶系:3本の結晶軸の長さが等しく、すべて90度以外の同じ角度で交差する。
  • 六方晶系:4本の結晶軸のうち3本が同じ長さで、60度で交わる。残りの1本は異なる長さで垂直に交わる。

また、結晶構造を持たず、規則性のないものを非結晶質(アモルファス/非晶質)という。オパールなどがこれにあたります。

モース硬度

ひっかいたときの傷のつきにくさを基準とした、硬さの尺度のことです。下記がモース硬度と標準鉱物です。

  • モース硬度1:滑石 (最も軟らかい鉱物。爪で簡単に傷をつけられる)
  • モース硬度2:石膏 (指の爪で何とか傷をつけることができる)
  • モース硬度3:方解石 (硬貨でこするとなんとか傷をつけることができる)
  • モース硬度4:蛍石 (ナイフの刃で簡単に傷をつけることができる)
  • モース硬度5:燐灰石 (ナイフでなんとか傷をつけることができる)
  • モース硬度6:正長石 (ナイフで傷をつけることができず、刃が傷む)
  • モース硬度7:石英 (ガラスや鋼鉄などに傷をつけることができる)
  • モース硬度8:トパーズ (石英に傷をつけることができる)
  • モース硬度9:コランダム (石英にもトパーズにも傷をつけることができる)
  • モース硬度10:ダイヤモンド (地球上の鉱物の中で最も硬く、コランダムにも傷をつけることができる)

標準鉱物と試料をこすり合わせ、傷ができるかどうかで硬さが測定されます。

参考文献

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